お侍様 小劇場

   “冬至の朝に” (お侍 番外編 137)


今年は結果として冷夏だったそうだが、
そういう年は冬も穏やかだという定説はどこへ行ったやら、

 「12月のうちから大荒れですものねぇ。」

空の青も案外と濃く、
それが映えて見えるほどに
ご近所のお屋敷の壁も明るく照らされている
そりゃあいいお日和ではあるけれど。
気温自体は相当に低く、
外での水仕事は結構こたえるし、金物は手套をして触れたいこのごろで。
だというに、今朝もきんと冴えた外気の中、
プリムラやベコニアの小さな鉢植えを、1つ1つ丁寧に確かめつつ、
花の遅いのんびり屋さんを陽あたりのいいところへ移し変える作業、
軍手をはいた手で朝から手掛けておいでの七郎次であり。
男ばかりの、
しかも あとの家人二人は会社だ学校だへ出掛ける所帯なの、
きっちり整然と整えつつ守っておいでの敏腕秘書殿は。
嫋やかな見映えそのままに、お庭の世話も大好きらしく、
季節季節に合った緑や花々を、どれも見事に丹精なさっておいで。
今時分だと、師走と言えばの
シクラメンやポインセチアをわざわざ飾るのではなくて、

 「クリスマスカラーの鉢なら、ちゃんとありますよ?」

落ち着いた深みのある赤い花が咲く鉢と、
花は小ぶりだが、緑の葉が青々と元気なのとを組み合わせ、
玄関前のポーチに配しているのは、クリスマス仕様のディスプレイ。
家長である勘兵衛がもういい年齢であるのだし、
いかにもなリースを飾るのは
似合わないと嫌がりそうだからという、
深くて気の利いた心遣いなのが、

 「〜〜〜vv」

お手伝いにとエプロンかけてついて来た久蔵へも速攻で伝わり。
長い睫毛を伏せるよにして、
小鉢を1つ1つ愛でていなさるおっ母様の横顔へ。
そちらはエアリーなくせっ毛を風に遊ばれつつも、
日頃は誰へもほぼ鋭角な眼差しを、
今だけ うっとりまろやかに和ませているから大したもので。

 “……と判るのは、
  木曽の草の面々くらいの者だろうがな。”

相変わらずに
表情と感情の連携があるのだろうかと危ぶまれている
クールな若者が増えた今時でも、その中で群を抜く最高峰になろう
氷のような美貌が一番の特徴、将来の“木曽”の次代様。
情報管理を担い、島田の基盤を支える、
支家の筆頭でもある特別な格の家長がそれではと
案じる者は…だがだが一人もいないのは、
そんな彼を支える侍従らが ちゃんと補完出来るからで。
それも年季を積んだ者だけかと思いきや、
年齢が近い イブキとかいう伝令役も、
後ろ姿からでも 気持ちが尖っているか、
はたまた嬉しくて猫耳が寝ているかが判るというから、

 “…まあ、そういう輩なら七郎次も大切にしようから。”

さして問題はないわなと、
今日は会社もお務めもお休みの、お髭の家長様が
窓越しに お元気な若いのたちの土遊びを眺めておいでで。
今日は一年で一番昼の短い冬至だが、
柑橘の溌剌とした黄色もかくあらん、
ほっこり微笑うお陽様がおいでのこちらのお宅は、
それほど寒い想いもしない冬となっておいでのようでございます。





   〜Fine〜  14.12.22.


  *お務めを思いつけないからか、
   穏やかな日々ばかり紡いでおります島田のお家です。
   某女子高生たちが大暴れするもんだから、
   こちらの皆様だと…となると、
   ちょっとやそっとの任務を書けなくなったというのは、
   此処だけの話ということで。(大笑)

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